2021乗船ログ(5月分)~国境を越えられぬ深紅の高速船~
ゴールデンウイークは近場で過ごそう、な昨今のご時世。その情勢の煽りを大きく受け翻弄される新船が今回のテーマです。
③JR九州高速船【QUEEN BEETLE】(2021年5月3日)
日本から韓国を結ぶ国際航路はいくつかありますが、主要都市の中で韓国南部の主要都市・釜山との距離が最も近い福岡市からは両国合わせて3社が運営。高速船は1社ずつで日本側の会社がJR九州の子会社、JR九州高速船です。
「ビートル」の名で3隻のジェットフォイルを所有し博多港~釜山港を約3時間で結んでいました。そして2018年に新造船の導入を発表。昨年9月に引き渡されたのが【QUEEN BEETLE】でした。
しかし国際航路には世界的大流行となった新型コロナウイルスの影響が直撃。2020年3月9日以降1年以上に渡り定期航路は運休。昨年12月には既存のジェットフォイル3隻の売却を検討している旨が報道されるなど厳しい状態が続いています。
9月に【QUEEN BEETLE】が引き渡された後11月に内覧会が開催。この当時から遊覧運航についての検討が行われていたようですがここで船籍*1の問題が発生します。
通常日本国内で運航が完結する航路は日本船籍の船舶で運航しなければならないという規制(カボタージュ規制*2 )から国土交通省の認可を受ける必要がありました*3*4。
そして特例の認可が下りた3月以降から臨時の遊覧運航が始まっています。今回は所要時間1時間半の博多湾内周遊クルーズを利用しました。
出航40分前の13:20頃に発着港となる博多港国際ターミナルに到着します。
建物に入ると手指消毒と検温を受け、問題が無ければ「検温済」の用紙を貰いJR九州高速船のカウンターで乗船手続きを行います。乗船券を受け取った後一度ターミナルの外へ出て少し離れた位置に停泊しています。
そして乗船口付近に到着。公園の前にある岸壁に接岸している形となっているため乗船客以外も船の近くまで行けるようになっていました。他の船と比べて派手な色使いであることも相まってスマホやカメラで写真に収める方もいました。
13:35頃にスタッフの方の案内で乗船開始。手続きの際渡された乗船券の左下を切り取って渡した後、消毒液で手指消毒して船内へ入ります。
船内1F部分から入って左側の階段で2Fに上がります。【QUEEN BEETLE】の船室はスタンダード、ビジネスの2クラス制となっており今回は2Fのビジネスクラスを利用。
ビジネスクラス船室は他の区画と扉で完全に隔てられており、出入りには乗船券に印刷されたQRコードをコードリーダーにかざす必要があります。
中に入るとまず目に飛び込んでくるのは大きなシェル型の座席。右舷側と左舷側双方の窓側と船体中央よりにそれぞれ2列に並び配置されています。座席のリクライニングを倒しても後ろの座席には干渉しないようになっており、快適に過ごせるようになっています。
船室最後尾付近にはサービスエリア等で見られるカップ型のコーヒー等の自販機が設置。ビジネスクラス利用客は無料で利用できます。またトイレも近くに設置。右舷側に男性用、左舷側に女性用が配置されています。
ビジネスクラス船室中央から前よりにも座席が配置。こちらはシェル型シートではありませんが設備は同様に読書灯、フッドレストが装備。柔らかなシートで快適に過ごすことができます。
船体最前方にも座席が配置。ただ此方は前面から進行方向を見渡せることもあってかプロムナード的意味合いが強く、リクライニング等の設備は無く座席番号も附番されていませんでした。
船室中央には軽食カウンターが設置。アルコール類を含む飲物や軽食、デザート等が販売されています。今回はクレジットカードでの決済も可能な様子でした。
また、区画各所の天井には大型ディスプレイが設置。停泊中には【QUEEN BEETLE】のプロモーションビデオ、出航前には飛行機と同じような非常用設備・船内安全についてのビデオ、航行時には船体外部のカメラから進行方向を映した映像が流れていました。
1Fはスタンダードクラス。此方は区画分け等はされておらず自由に立ち入ることができます。船室後方に入口があり、自販機(有料)2台が設置。ビジネスクラスと同様にこちらにも軽食カウンターが設置されています。
軽食カウンターから船室中程まではグループ利用に対応した2席向かい合わせ4人掛けのボックス席のような区画。隣り合う席とはガラスで仕切られており、向かい合わせの座席の間のテーブルには飛沫対策のパーテーションも設置されています。
中程から前方にかけては1人掛けの席が並び、最前方にはキッズルームと授乳室が設置されています。
パブリックスペースは主に2Fと3Fに配置され、2F後方にはロッカーやスーツケース、自転車の収納スペース、多機能トイレ、アイスクリームの自販機(有料)、船内免税店が設置。免税店ではオリジナルグッズや遊覧航海で航行する糸島半島の名産品が販売されていました。
3Fにはサンデッキ(展望座席)が設置。唯一船外に出ることのできるスペースとなっています。
定刻通り14:00に博多港を就航。港内から福岡の市街地と島々を臨みながら進んで行きます。船室の窓も大きく就航から時間も経っていない為、穏やかな天候も相まって景色を存分に眺めることができます。
忙しなく船内探索したり景色を眺めているうちにあっという間に博多港へ到着しました。下船後再び船体を撮影。この船は3つの船体を平行に繋いだ形状(トリマラン)と少し変わった構造となっており、前方側から撮影するとその独特の形状が見て取れます。
速度や波の揺れへの耐性について優位な構造とされているとのこと。
建造したのはオーストリアの造船会社「AUSTAL」社で全長はトリマラン船としては最大クラスの83.5m、航海速力36.5ノット、幅20.2mとなっています。
JR九州のコーポレートカラーの赤を全面に押し出し、大きく存在感を示すように記された「QUEEN BEETLE」の船名。内装も2クラス制でそれぞれに軽食カウンターが設置され自由に船内を散策でき充実した船内設備、とりわけビジネスクラスは中々上質な空間と感じました。
【QUEEN BEETLE】にとっては厳しい状況が続きますがいつかこの船で国境を気軽に越えられる日が来ることを願わずにはいられないところです。
*1:この船は日本船籍では無くパナマ船籍。税金の低さから貨物船等の船籍が置かれることが多い。便宜置籍船|用語集|NEXI 日本貿易保険
*2:
https://www.jrbeetle.com/wp/wp-content/uploads/20210310_newsrelease.pdf