革新した最古の長距離フェリー(阪九フェリー3隻比較)
2020年に利用した阪九フェリー。乗船した3隻とも2015年以降に就航した比較的新しい船で、船内の設備は多くの共通点もありますが、就航時期の差や同じ就航時期の船でも多少内装や船内設備に差があります。今回はその比較です。
まずはそれぞれの船のスペックから。
【いずみ】
就航日:2015年1月22日
建造:三菱重工業下関造船所
総トン数:15,897t→16,040t
全長:195m
全幅:29.6m
旅客定員:625名
車両積載台数:トラック277台/乗用車188台
航海速力:23.5ノット
【せっつ】
就航日:2020年3月10日
建造:三菱重工業下関造船所
総トン数:16,292t
全長:195m
全幅:29.6m
旅客定員:663名
車両積載台数:トラック277台/乗用車188台
航海速力:23.5ノット
【やまと】
就航日:2020年6月30日
建造:三菱重工業下関造船所
総トン数:16,292t
全長:195m
全幅:29.6m
旅客定員:663名
車両積載台数:トラック277台/乗用車188台
航海速力:23.5ノット
3隻とも似通ったスペックで大きな差異はありません。ただより後発に就航した【せっつ】【やまと】はSOxスクラバー*1が設置されてその分ファンネルが大型化。既に運航されている【いずみ】(と姉妹船にあたる【ひびき】)にも今年(2020年)に後付けされ、従来のファンネルの船首側に白い箱のようなものがくっついているような形状となっています。
また【せっつ】【やまと】では乗務員区画が旅客用の区画の1層上に設けられる形となっており、【いずみ】より若干船の高さとしては高くなっています。
ここからは船内の内装を。まずは乗船して最初に目に入る3層吹き抜けのロビーから。
多くのフェリーは内装・デザインのコンセプトやイメージがあり【いずみ】は「わのおもてなし」*2、【せっつ】【やまと】は「星空と海の見える癒しの旅」となっており【いずみ】は白に濃い茶色のシックな色使い、【せっつ】は「港町神戸」のイメージで白に薄橙色、更に青や黄色といった明るめの色が用いられています。一方【やまと】は「門司港レトロの街並」のイメージで濃い茶色に青緑色(?)、更に煉瓦イメージのオレンジ色と濃い赤色を用いた落ち着いた色使いとなっており、同じような構造でも船によって違う印象を与えています。
また【いずみ】ではロビー最上部に天窓が設けられ、明るい時間帯には日の光が船内に差し込むようになっているのに対し、【せっつ】【やまと】は3重の円形の照明が設置。基本的には内側2つが青色、一番外側の縁が赤色の組み合わせとなっていますが色を変えることもできるのだとか。 (シースルーエレベーターが青色で比較的明るい色使いの【せっつ】では比較的違和感は少ないのですが、シースルーエレベーターが白色で落ち着いた色使いの【やまと】ではやや周囲から浮いている印象も受けます。)
また、細かい部分になりますが【いずみ】と【せっつ】【やまと】でロビーに配置されている椅子が異なっていたり、大型テレビの前のステージ*3に段差がある【いずみ】と色分けのみの【せっつ】【やまと】といったものもあります。
その他にも5階ロビーの左右にある乗船口周りで【いずみ】には特に注意書き以外の装飾はありませんが【せっつ】はそれぞれの乗船口の左右2箇所、計4か所に神戸市内の観光名所やランドマークのイラストとそれに関連する単語が日・英・仏・伊・西・羅(ルーマニア)の6言語で表記。【やまと】は【せっつ】と同じ乗船口横の4箇所に日付とともに二十四節季が日本語で表記されています。
最上階の7階。大浴場などの施設や展望デッキなどパブリックスペースが多く設置され、上級船室も設けられている区画です。3隻に共通して設置されているのは大浴場と露天風呂。特に露天風呂は【いずみ】から新設され、【せっつ】【やまと】でも設置されていますが、瀬戸内海の潮風に吹かれ景色を臨みながら入浴するのはまさに唯一無二の体験です。 *4
その露天風呂も【いずみ】ではガラスの仕切りの下部に隙間があり、風が吹き込みやすい形状から【せっつ】【やまと】では下部まで仕切りがされ隙間風が軽減される細かい改良がされています。
7階後方には屋外の展望デッキ。こちらも【せっつ】【やまと】は展望デッキ出入口部分に風除けが設けられています。
3隻ともファンネル周囲まで散策することが出来ますが、立ち入れる範囲は【いずみ】の方が広く、より船尾近くまで進むことが出来ます。
【せっつ】【やまと】では【いずみ】から新たに展望ロビーが追加。2船のコンセプト「星空と海を臨む癒しの船旅」を象徴するような広い空間が船体左右、男女それぞれの大浴場入口前に設けられており、大きな2つの窓と特徴的な形のソファー、そして就航当初から現在までの阪九フェリーで運航されたフェリーの写真が飾られたスペースとなっています。
【いずみ】の歴代就航船写真展示スペースは7階大浴場横の通路に設置されています。
また【せっつ】【やまと】では6階に写真撮影コーナーも設置。船内設備案内用のデジタルサイネージも各所に設置されています。
ここからはそのほか休憩スペースや船内注意事項、案内サインを写真で。
最後は実際に利用した船室。【いずみ】【せっつ】ではスイート、【やまと】ではデラックスシングルを利用。【ひびき】を含む4隻は同じ等級であれば新門司~神戸・泉大津ともに値段は同一となっています。
基本的に設備は同一。ただ【せっつ】では窓が大型化。明るくなってからの航行時間が比較的長い新門司~神戸航路の金曜日・土曜日発便(8:30到着)では船室は日の光が差し込みかなり明るくなり、室内からでも夜景や海を広い窓から臨むことが出来ます。
また据え付けられているお菓子は【いずみ】では玉子せんべい、【せっつ】ではクッキーとなっています。*5
【やまと】で利用したデラックスシングル
7階船室中央、窓の無い1人用個室のデラックスシングル。その性質上携帯電話の電波受信が難しく、圏外となる場合もありトイレを利用する際や、景色を楽しんだり安定して電波を受信するにはロビー等にでる必要はありますが、一晩寝泊まりして移動してかつ鍵のかかる船室としては必要十分な設備となっています。
九州各地発の関西・関東方面の長距離フェリー各社はここ数年で新造船が相次いで就航、更に今後数年で多くの船が新造船へ置き換わります。その中でも2020年に一足先に置換が完了し、通常ダイヤで運航される船4隻が全て2015年以降の就航船となった*6長距離フェリーでは最古の歴史をもつ阪九フェリー。就航時期やコンセプトによって4隻それぞれに設備や色使いに若干の差異はあれど、どれも快適な一晩の船旅。それぞれの違いに少し目を向けてみるとまた違った楽しみ方もできるのではと思っています。
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*1:船舶の排気ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)を除去するための装置。2020年から排出に関する規制が世界的に強化されたことに対する対応で、国内で運航される長距離フェリーでは【せっつ】【やまと】が初めて就航当初から搭載されている船となった。
*2:輪、和、環、話の4つがピックアップされている。
*3:2020年12月現在では新型コロナウイルス感染拡大対策の為中止されていますが、以前は船内イベントの1つとしてミニライブ等が行われていました。 船内ライブ | 阪九フェリー
*4:瀬戸内海の長距離フェリーで露天風呂が設置されているのは【いずみ】【ひびき】【せっつ】【やまと】の4隻のみ。阪九フェリー以外では同じSHKライングループの新日本海フェリー【すずらん】【すいせん】【らべんだあ】【あざれあ】に設置、そして2021年7月就航予定の東京九州フェリー【はまゆう】【それいゆ】への設置が発表されています。
*6:一部運用時には就航2003年で、やや設備が古めの【つくし】が充当されることもありますがレストラン・大浴場・売店など基本的な設備は設置されています